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ラジオの向こうと水彩画

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ラジオの向こうと水彩画

一枚の絵が嫁ぎました。
帆船エンデュアランス号を描いた水彩画です。
エンデュァランスは、探検家のアーネストシャクルトンが乗っていた船です。
トップ写真はお客様のご自宅にかけられた様子です。
「キッチンから一番よく見える場所にかけました」とお客様からメールをいただきました。茅ヶ崎市にお住まいの方です。

100年以上前、南極探検で遭難し困難を乗り越えたシャクルトンの体験は何冊の本にもなっているのでご存知の方も多いと思います。

彼の想像を絶する体験談からは、自分も、大きなパワーをもらえました。

彼の船を描いた理由の一つは、シャクルトンからもらった前進力へのをサンクスを、絵を通して誰かにフィードバックしたかったから、です。

探検の超簡易版?が「旅」だとすると、「旅」は次々プレゼントがやってくる至極の体験です。
もっともそれに気がつけば、の話ですが。
というのも、プレゼントはトラブルというカタチでやってくるのです、大方は。

アニメーターだった20代、仕事漬けの徹夜のラジオの向こうで「若き日に旅をせずして老いてのち何をば語る」と誰がが言っていました。

しかし、当時の自分は「仕事缶詰」。
ピンとも来なかったし、「休みはない、金もない。アパートにさえ帰れない。旅になんて出れるわけないじゃないか」と完全に否定派でした。

そんな「缶詰アニメーター」をやっているうちに、その言葉は小骨のように心の喉に引っかかり、数年後に退社。今の妻と二人、リュックを背負って小さな旅に出ることになる。
(旅資金もなかったので、路銀は銀行から借りた三年返済フリーローンでした)

その旅が気づかせてくれたのは、トラブルとそれに対する助けが、まるで心電図の波長形のようにリズミカルにやってくる、ということ。
日常、日々という「旅」においてもそれは同じ。
なかなか達観はできないけれど、日々を生きるって、旅と一緒。
トラブルはゴール=光を目指すため、神様が「ほら」と置いてくれる一里塚みたいなものなのでしょう。

あと数年で、自分は世間的に還暦なる歳を迎えます。
アニメーターからはじまって、挿絵を描いたりポスターの絵柄を手掛けたり、法廷画を依頼されたり、水彩画を買ってもらったり。
振り返ると描くことだけで生きてきました。

しかし「画家、アーティストとして生きてきた」という感覚は、全くありません。
「日々を描くことで乗り越えてきた」
ただそんな感覚。

世間で言えば定年に近づいてきて、ようやくこう思えます。
「もし神様がいるとすれば、神様が自分が与えたのは「見聞きしたものを描け」ということなんだ」

この先さらに、いままでの旅を通して気づかせてくれた「神様のプレゼント」を、様々な絵に、色彩に変え、構図に変え、封じ込めていきたいと思っています。
あらためて自分の「お楽しみはこれからだ」と思っています。

ラジオの向こうに聞いた「若き日に旅をせずして老いてのち何をば語る」。期せずして今、その重みを手のひらに受け止めることができています。
シャクルトンのエンデュァランスの絵は、そんな思いも込めながら描いた一枚でした。
ありがとうございました。

最後に紹介する水彩画は英国海軍巡洋艦フッド。

ビスマルクに轟沈させられた艦(フネ)です。
絵の向こうには消えて行った乗組員の数だけいくつもの物語がつまっています。 「HMS.HOOD」画寸23センチ×7センチ ¥41.800(税込)