2019-10-10
「この塔は茨の冠をかぶっているイエスキリストのようだ…」
それがはじめて原爆ドームを見たときに胸にわきあがってきた言葉でした。その時、スケッチブックを広げているわたしの回りには外国人観光客が静かに立ち、皆、無言で塔を見上げていました。言葉にならない哀しみや切なさ。一瞬で奪われた幾多の命の叫びのようなものが、私や彼らの胸を通り過ぎて行くのが「見え」ました。
今年もイタリアファブリアーノで開催された国際水彩展覧会に日本チームの一人として参加しました。そのイタリア出品のために描いたのが、その時の取材から生み出した原爆ドームを描いた「茨の塔」です。
過去三回出品していますが、過去二回は日本の東北風景水彩画を送っていました。津軽の漁村や遠野の雪景色です。三回目となる2019年参加にあたって、取材し胸をどつかれた、「原爆の証人」を描くしかない、と思ったのでした。
せんだってこの絵は、心ある方が「飾る意義がある絵」と所蔵してくださいました。それも来客が目にする施設の応接室に架けます、と。
アウシュビッツ、ベルリンの壁とそんな戦跡や歴史の証人を、現場で見てきました。そんな自分にとって、原爆ドームを見た以上、とにかく難産であっても生み出さなければならなかった絵が「茨の塔」だったと思っています。
絵はアトリエの隅で箱の中にしまわれていたのでは悲しい。誰かの目に触れてこそ生きるものだと思っています。
ありがとうございます。